●映研日記『マネーボール』
経済誌『エコノミスト』で紹介されていた内容が気に入って、メンズデー(料金1000円)に見に行った。
「人は野球に夢を求める。その野球の奥の深さにはいつも驚かされる。」という往年の名選手ミッキー・マントルの言葉で、映画は始まる。
そして、2006年のWBCにも出ていた外野手デイモン選手(当時はアスレチックス所属)が、リーグ優勝をかけたプレーオフの試合でヒットを打つシーンが展開される。しかしヤンキースとのプレーオフに敗れて、リーグ優勝を逃すアスレチックス。
その後、デイモンやジオンビーといった中心選手たちは、ヤンキースのような金持ち球団に移籍していく。リーグ優勝、ワールドシリーズが手に届くトコロまで来て、戦力ダウンに追いこまれる貧乏球団アスレチックス。
貧乏球団の悲哀を痛感させらたアスレチックスの若きGM、ビリー・ビーンは、名門イエール大学経済学部出身の野球オタク、ピーターと出会い、彼が信奉するデータ重視のチーム運営理論に、貧乏球団の活路を見出すというお話。
アスレチックスというと、リッキー・ヘンダーソンという超快速トップバーターや(日本でいったら昔の阪急の福本選手・・、なつかしい!)、ホセ・カンセコやマーク・マグワイアといったパワーヒッターがいて、豪快な野球を展開していた頃のイメージが強かったのだが、まったく変わっていたのだね。
ウィキペディアによると、現実の経緯は以下のようになる。
オーナーの死去によりアスレチックスの財政状況は大きく変わり、自分の記憶に残っていたようなアスレチックスのスター軍団は解体を余儀なくされる。
そして、当時GMであったサンディ・アルダーソンは、野球統計の専門家であるビル・ジェームズが提唱した「セイバーメトリクス理論」を参考にして、出塁率・長打率を重視するチーム作りを図っていく。
アルダーソンのアシスタントとしてチーム運営に携わっていたビリー・ビーンは、1997年にアルダーソンの後任としてGMに就任。以後「セイバーメトリクス理論」に基づいて、低予算でのチーム強化を図りアスレチックスを立て直していった。
この「セイバーメトリクス理論」というのは、野球の采配に統計学的根拠を与えようとしたモノだったのだが、野球における伝統的な考え方と反する面があったのと、それを提唱したビル・ジェームズ自身が本格的に野球をプレーした経験がなかったコトもあって、当初は批判的に扱われたという。
なるほど。日本で言うならば、小関順二氏のような方がいらっしゃったんですな。彼の提唱するデータ理論も、当初は「オタクのタワゴト」扱いだったかもしれないが、今では主流の考えとなっている・・・。
映画では、当初反発を買ったビリー・ビーンの考えが徐々にチームに浸透していき、最後には奇跡の20連勝を実現するシーンが感動的に描かれる。
ストーリー自体は、アメリカ映画らしく結構強引な展開なのだが、その中でビリー・ビーンが『選手たちに説く「野球は一連の行為なんだ」という言葉が目にとまった。
森 祇晶(まさあき)監督が率いた西武ライオンズの黄金時代(9年間でリーグ優勝8回、日本一6回!)。静岡草薙球場で行われた西部ライオンズ−日本ハムファイターズの試合を、友人に誘われて見に行ったコトがあった。
3塁側内野上部の席で見ていると、ライオンズの打者たちが右・ライト狙いに徹しているのがよく分かった。繰り返されるセカンドゴロやライトフライ・・。
ゲーム中盤以降になるとそれが功を奏し、ライト前へのヒットや長打が続ようになり、ライオンズが着実に得点を重ねていく。
まるで、厚い壁を巨万のアリが崩していく、もしくは執念深く打ち下ろすノミの力によって巨壁を崩していく。そんなシーンを見ているかのように、感じられたものだったった。
野球における打撃・ヒッティングは、一人の打者が行う独立した行為である。しかしそれは、ゲームにおいては、チーム全体で行う「一連の行為」となっている。
そこにおける共同意思をどのように形成するか?
それが、野球というチームゲームにおける重要な要素となってくる。
打者・バッターの行為はそれ自体は孤立しているが、その行為をチームの協同のモノ=チームプレイとして、どのようにつなげていけるかが求められるのだ。
「セイバーメトリクス理論」が追求する効率性とは、実は単なる統計上の数値ではない。それは、選手個々をバラバラに見るのではなく、そのチームとしての全体性を重視するモノとしてあるのではないかと、個人的には思った。
その意味では単に野球にとどまらず、ビジネスにおいても応用できる理論ではないのかと思う。
経済誌「エコノミスト」で紹介されるのも、むべなるかな。
ゆえに、かの映画評は以下のようにつづる。
『普通にいうなら、ビーンは改革者である。旧態依然たる野球の世界に新鮮な視点とハイテクを持ち込んだ革命児と呼んでもよいだろう。』
しかし、評は以下のように転ずる。
『だが、勝利や上昇の匂いは思いのほか少ない。むしろ印象に残るのは、随所に漂う男たちの脆さや弱さだ。』と。
そして、以下のように結論づける。
『その根っこにあるのは、意外なほど古典的な反抗精神とメランコリーだ。「マネーボール」は近来まれな後味のよい映画に仕上がっている。』のだと。
映画の終盤、アスレチックスの立て直しに成功したたビリー・ビーンは、名門球団レッドソックスから、1250万ドル(10億円!)というGMとしては史上最高の条件でのオファーを受ける。
迷った末に彼は、「アスレチックスでワールドシリーズ優勝を達成したいんだ」と残留を決心する。
ラストシーンで、離婚した妻と暮らす最愛の娘が歌う曲を聴きながら、車を走らせるビリー・ビーン。
「〜パパはオバカサンね〜♪」
「〜でも・・野球を楽しんで〜♪」
挫折から立ち直り、弱さや脆さを抱えながら現実の壁と戦っていく孤独な男にとって、何よりの励ましのエールである。
そして、映画の冒頭のミッキー・マントルの言葉が続く。
「人は野球に夢を求める」 のだと。
イイ映画である。
